犬も吼えれば現実に当たる
	吼える。
	犬が吼える。
	散歩へ連れて行け、と吼える。
	首輪を外せ、と吼える。

	吼える。
	犬が吼える。
	餌の時間だぞ、と吼える。
	保健所は嫌いだぞ、と吼える。

	吼える。
	犬が吼える。
	全世界に平和と平等を、と吼える。
	愛を 自由を 世界を 平等を 社会を 平和を 共存社会を

	ああ、もう。 五月蝿い。 黙れ。 私は眠いんだ。
	いっそのこと 何処かへ行ってしまえ。

	私は嘆く。 己の惨めで哀れな境遇を。
	それこそ、悲劇の主人公の様な振る舞いで。

	犬を放してやった。
	三流悲劇役者の私は、犬を放してやった。

	野良犬が集った。
	同じ境遇の野良犬が集った。
	同じ境遇の野良犬の頭が現れた。
	野良犬は、来る新世界に
	自由 平等 平和 を謳った。
	野良犬は、野良犬であって、同時に野良犬でなくなった。


	数週間後のある晩に、一匹の犬が吼えた。
	次の朝にはより多くの犬が吼えた。
	とうとう、全ての犬が吠え出した。

	むろん、たった一匹を除いて。


	放した犬が、帰ってきた。
	私は嘆いた。 己の惨めで哀れな境遇を。
	中途半端に、ハムレットの様な振る舞いで。


	こんど、「私」と「犬」で劇を上演することになった。
	もちろん、『悲劇』だった。


	劇が、始まった。
	開始早々、観客のひとりが、こう呟いた。
	「もし、そこの殿方。あれは何て喜劇ですの?」
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