温度
requested by 光禾 様
 いつものクセが発動。
 現在定刻30分前。
 ・・・しまった、早すぎたか。

 暇潰しの為に120円を費やした。
 上手く調合された缶珈琲を買うため。
 当面はカイロの代替品として活用するだろう。

 他人を待たせるのが嫌で、自分が待つのが嫌だから、
 予定よりもかなり早く着く習性。

 論理矛盾が存在するのは、気付かないフリで誤魔化す。
 つくづく自分の愚かさを呪い、それを苦笑いで噛み殺す。

 光のオブジェで、消費される世界に 私は今、ぽつん、と 取り残されていた。
 辺りは忙しない喧騒と、時速120kmの、制限を知らない鉄の塊が
 我こそは、と、駆け巡る。

 そんなに見せ付けたいのかよ・・・。

 「ふぅ。」
 一回、大きく溜め息をつく。

 ・・・白く、浮かんだ。

 二酸化炭素を主成分とした混合物が、空気に混ざる。

 ・・・消えた。

 こんな雑踏の中に居るのに、
 なんとなく疎外感。
 なんとなく、ひとりぼっち。

 でも大丈夫。
 あえて孤独を選ぶ人、いるじゃない?
 それ、私。
 だから、大丈夫。

 オレンジ色の文字を、垂れ流している
 電光掲示板を見上げた。
 ・・・5℃。
 ・・・はぁ。
 なるほど、寒いわけだ。

 今まで、気にも留めていなかったけれど
 気にしだすと、やたら寒い。

 ・・・やっぱり、誰か、呼ぼう。
 「誰か」とか言いながらも、応答を求める人は決定済み。

 視覚から指の運動神経へと直通の反射運動。
 単純労働で、単純作業。
 メール、送信、っと。

 あとは待つだけ。
 いつもの定理を適用すれば、
 カップ麺が出来上がる前には
 雑踏に喝をいれる電子音が
 簡単に答えを導き出すはず。

 ・・・やっぱり恥しいから、マナーにしておこう。

 ・・・カップ麺はつい先刻に出来上がっている筈だ。
 すかさずセンターにメールを問い合わせる。

 ・・・「新着メールはありません。」、か。
 そりゃ、そうか。
 こんな年末じゃ、誰だって忙しいよね。

 もう、いいや。
 多分、これ以上聞きまわっても、虚しくなるだけだから。
 そもそも元から、他の人に聞くつもりは無かったんだけれど。

 ・・・なんだ、驕ってたのは自分だけ、か。


 気にしだすと、やっぱり寒い。
 なんだか、肌が、痛い。

 なんとなく疎外感だったのが、
 なんとなくでは無くなって、
 なんとなく、ひとりぼっちだったのが
 本当にひとりぼっちになっていた。

 今まで、気にも留めていなかったけれど
 気にしだすと、やたら孤独。

 ・・・あれ、自分から孤独を選んでたんじゃなかったっけ?
 ・・・もしかして、逆?
 孤独にさせられていただけ?

 なんか、寂しい。
 なんか、悲しい。

 温かい珈琲が、知らない間に冷めていた、
 そんな気分。

 珈琲はおかわり自由だけど、
 温もりは望んだって、手に入らない。

 そんなの、言われなくたって分かってる。
 ・・・分かってた・・・つもりだったんだけど。

 温もりが恋しいのは、今までが暖かすぎたからで。
 独りになりたいのも、今までが暖かすぎたからで。

 なんか、切ない。


 電子音の不意打ち。
 効果は絶大で、抜群。
 なんて短文。
 なんて単純。

 そして、アイツは来た。
 なんて単純。
 もちろん、私が。

 代替品カイロから、専用カイロに切り替える
 ・・・なんだ。
 今日は、そんなに寒くないや。

 なんとなく、温かくて、
 なんとなく、幸せ。

 36度から37度ぐらいの微温湯も
 案外、悪くないかもしれない。
 少なくとも、このコートよりかは
 幾分温かな気がした。


 光のオブジェで、消費される世界に
 何かが今、ぽつん、と 取り残されていた。
 辺りは忙しない喧騒と、
 時速2kmの、際限を知らない肉の塊が
 我こそは、と、駆け巡る。

 そして、都合よく忘れる。
 そして、都合よく思い出す。

 いわゆる、
 「温もり」とやらを。

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